ベジパックのための葉野菜 From マル神農園 山梨県甲州市

Why Juice?の店頭で販売しているベジパック。旬の野菜をサラダとしてすぐに食べられるようにパックしたものですが、からし菜、サラダほうれん草、水菜、ルッコラ、わさび菜、バターレタス……と、さまざまな種類の野菜が贅沢に入っています。 きちんと作られているからこそ青々しい味を持っている葉野菜。そのうまれる場所を訪ねました。

山梨県甲州市のマル神農園。
葡萄やワインで知られる勝沼から少し北へ。塩山(えんざん)という地域を目指して、ぐんぐんと山道を上ります。大菩薩嶺(だいぼさつれい)という山の山腹、標高850mの高さにマル神農園はありました。
甲府市内や都内のオーガニックレストランから信頼を得ているこの農園を営むのは、岩波勇太さん、古屋聡さん、雨宮陽一さん。

塩山で生まれ育ったという3人は、もともとは20代後半に仲良くなった遊び友達。それぞれが地元の高校を卒業し進学や就職で上京したものの、都会がいやになりUターンしたという共通の価値観があります。

「若い頃は東京で働くのが普通だと思っていましたから。でも、消費や常識にしばられているようでなんだか自分には合わなかった」というのは、雨宮さん。

美容師をしていたという岩波さんも、手に職をつけながらも一度立ち止まったときに土に近い仕事がしたい、と考えるように。

古谷さんはご実家が桃農家ということもあり農業に従事していたけれど、「無農薬」という親や祖父母の時代にはなかった価値観に目覚めます(果物は虫がつきやすいため、野菜よりも無農薬で育てるのが難しいとか)。

全員が地元に帰ってきて、共通の友人の紹介を通じて顔を合わせる中で「おもしろいことをしよう」と意気投合。3人が感じたおもしろいこと。それが有機農業でした。

「最初は勢いで趣味みたいなものでしたよ。このあたりは、土地がたくさん余っているから安く畑をかりられましたし」(雨宮さん)。

マル神農園がある地域は山のなかなので、棚田ならぬ棚畑状態で小さな畑が折り重なるようにして連なっています。「車で登るのも大変で、就農人口が減ったことから手放す人が多い」という理由から、休耕中の畑ばかり。3人はあちこちに分布している畑を借りて農園を始めました。

最初の2年はアルバイトもしつつの試行錯誤の時期でしたが、7年目を迎えた今、農園は40カ所、3ヘクタールという広さにまで及んでいます。

自然淘汰されて残った強い野菜を作る

「ここは、標高差があるから朝夕が涼しいでしょう。この寒暖差がおいしい野菜を育てるんですよ」と古屋さん。夏でも日中以外は長袖が必要なほど涼しいこの地域では、害虫の数は山麓の畑の半分以下だといいます。

「気候や土には恵まれています。土がやわらかくて水はけがいい。このあたりで、肥沃な土地のことを“のっぷい”というんですが、この土地はのっぷいんです」(古屋さん)

さらに土地を肥やすためにススキや、炭素循環農法といって炭化した木のチップをすきこんだり。見せてもらった小松菜やわさび菜、ルッコラの畑も、ふかふかとしたやわらかい土に、青いじゅうたんを広げたように育っていました。

黄色い花を咲かせているのはカブ。
花を咲かせてタネをつくり、自家採取してまた畑にまくのだとか。

「野菜は全部で70種類ほど育てていますが、できるだけ固定種を植えているんです。」

固定種とは、品種改良していない昔ながらのタネのこと。育った野菜の中で一番いい野菜からタネをとり、また育てる。

できた一番いい野菜からまたタネをとり、というふうに自然淘汰されて残った強い野菜を作ることができます。対して今の農業で大きなシェアをしめているタネはF1種。これは、異なる性質のタネを掛け合わせてつくったタネで、病気に強いけれど味も大きさも均一で大量生産にむいているとか。

「どちらがいいというわけではないですが、固定種は昔ながらの味がするんです。」

農業がクリエイティブでかっこいい職業だと社会や子どもに伝えたい

土づくり。タネの採取。
おいしい野菜の背景にはいろんな工夫があるんですね。

「いやいや、工夫というより、戦いですよ」

農薬を使っていないため、虫が付いていないかどうかのチェックは毎日。古屋さんがハサミを片手にミニトマトをひとつひとつ見てまわります。

いた!トマトにつくオオタバコガの幼虫が。見つけたらその場でチョキンとまっぷたつ。

「大きくなるし増えるから容赦はしませんよ」

虫だけでなく、シカやイノシシも農業の敵。畑に入ってきては出たばかりの芽やもうすぐ収穫という野菜を食い荒らしていくとか。対策は、電流を流した電気網。害獣指定されているので、地元の猟師が仕留めることもあるけれど、あまりの数の多さにきりがないとか。

3人で農業を始めてから7年。いただいた名刺の肩書きには誇らしげに農民と書かれていました。

「地域や社会、未来のためになることを考え、身近なところで実現していく。グローバルに考えてローカルに行動する。グローカルって言ってるんですけど。農業がクリエイティブでかっこいい職業だと社会や子どもに伝えたいなって思ってます」

いまだに試行錯誤は続くけれど、ひょうひょうとして明るい3人の表情が印象的でした。

マル神農園
山梨県甲州市塩山上小田原122−1
0553-39-8671
https://www.facebook.com/marukami.nouen/info

  • 写真:白井亮
  • 取材・文:髙橋紡
  • スタイリング:田中美和子